ハロウィンの怖い話

2021 10/01

こんにちは。中環北堺店の川本恭平です。 10月に入りましたね。

今週末はSUV FAIRを実施します。 https://osaka.kinki-subaru.jp/suv202110?utm_source=kinkisubaru&utm_medium=mysubaru&utm_campaign=%2Fsuv202110

オリジナル体験ギフトの締め切りも間近です。是非この機会に気になるお車のお話をしませんか！？

そして今年もハロウィンの時期に突入！店舗もハロウィンの装飾がはじまりました。

今回は前回の「真夏の怖い話」に引き続き、「ハロウィンの怖い話」を紹介します。2人の女王と湖にまつわる話です。

軽井沢のはずれにたたずむセゾン現代美術館にはアンゼルム・キーファー作「オーストリア皇妃エリザベート」という絵画作品があります。大人が大きく両手を広げても3人は必要になりそうな大きな画面に不吉なグレーが塗りたくられ、真ん中には黒髪の束がUFOのようなものからぶら下がっています。遠目からは霧深い海に浮かぶ一隻の小舟のようにも見えます。とてもオーストリア皇妃には見えません。今回の登場人物の一人はこのハプスブルク家最後の皇女と言われるシィシイまたの名を「エリザベート」。

宝塚歌劇やミュージカルで人気のエリザベートにはたくさんの代名詞がつきます。モーツァルトで有名なザルツブルクで生まれた彼女は自由で奔放な娘として育ちますが、手違いで時のオーストリア皇帝フランツ＝ヨーゼフ2世に見染められ皇后に。オーストリア皇帝を輩出するハプスブルク家は中世の神聖ローマ帝国からヨーロッパを代表する名家として、一時は大航海時代で最盛期を迎えたスペイン王も兼任しました。日の沈まぬ帝国とうたわれたハプスブルク帝国に嫁いだシィシイ。ある種のサクセスストーリーに見えますが、結婚後自由な身を重んじる彼女は規律ばかりの宮廷生活に馴染めずに義母と対立、皇帝ともソリが合わずに度重なるヨーロッパ旅行を繰り返します。時代は産業革命に伴い市民の地位が向上し各地で革命が勃発する時代。19世紀はフランス革命に伴う混乱に始まり、イタリアではガリバルディの名のもとに統一運動が進み、ヴィスコンティ監督の名作『山猫』のような旧勢力と新興勢力の対立が起こりました。若き日のアラン・ドロン演じるタンクレディや新興勢力に新しい時代の息吹を感じると同時に、バート・ランカスター演じるサリーナ公爵を代表する旧勢力の、時代と向き合う姿にも胸を熱くされます。ドイツではビスマルクの友好的外交を超えて国民の熱狂がいわゆる第二帝国の成立を促しました。ロシアでも農奴による反乱が加速、20世紀のロシア革命を準備することとなるのです。日本でも例外ではありません。江戸城無血開城に代表される革命ではなく維新と呼ばれる明治の変革は士農工商の身分制度を壊し、氏族から刀を取り上げました。商人はシェイクスピアの「ヴェニスの商人」の悪徳金貸しのイメージから渋沢栄一「論語と算盤」のような、正しい道であればカネ儲けは世の役に立つというイメージへと変わって行きます。同じ家でもブルボン、ハプスブルク、ロマノフ、徳川からロスチャイルド、ロックフェラー、日本の財閥といった家の特質が変わっていくのです。

マルクスが幽霊と呼んだヨーロッパの一大勢力、市民の権利を求めた運動、国家統一を目指すナショナリズム。一つのワードの中に多様なストーリーや意味合いが込められた重層的な時代を後世の人々は象徴的な人物でもって描きたいと望みます。その一人がエリザベートでしょう。

エリザベートは衰退するハプスブルク家を象徴する存在でありながら、一方では前近代から近代へと移行する個人の自由、イプセンの「人形の家」に見られるような女性の権利、ハンガリーを熱狂させた民衆に寄り添う君主のイメージをも物語っています。

そんなエリザベートの最期は1898年9月10日ジュネーブでの暗殺。ヨーロッパ旅行中のことでした。レマン湖のほとりのこのスイスの都市は先に述べた19世紀の新たな息吹が生まれた場所なのではないかと私は思っています。特にジャン=ジャック・ルソーがこの地で思索を巡らせたことが大きいでしょう。フランス革命の理念である自由・平等・友愛という一度には叶え難い夢を市民に与えながら、カール＝シュミットを経由してドイツ第三帝国の出現までも射程範囲に含めるその思想には賛否がありますが、19世紀の夢と刹那を用意したことは間違いありません。レマン湖を臨みながら先人は来るべき時代を構想したのでしょう。チャップリンにオードリー・ヘップバーン、Queenのフレディマーキュリーまで往年の偉人たちに愛されたこの湖にはたくさんの歴史が詰まっています。エリザベートはこのレマン湖を眺めながら何を思ったのでしょうか。衰退する旧勢力を代表しながらも新しい時代の目を持っていた彼女。キーファーの作品にはどうしても不吉な予感ばかりがよぎりますが、彼女は今亡霊となってレマン湖を彷徨っているのでしょうか。

もう一つ魅惑的な湖を紹介します。竹生島がくっきり影になって輝く琵琶湖です。画像は堺から二時間程の琵琶湖の北東に位置する小谷城から映したものです。今回の主人公のもう一人はこの城の城主の娘、茶々またの名を「淀殿」。

織田信長の妹、お市の方とこの城の城主浅井長政の間に生まれた茶々は戦国の動乱とその終焉を体現する存在でしょう。「近江を制するものは天下を制す」と言われる近江は京と東国を繋ぐ要所であり、信長の天下取りにおいて最重要な拠点でした。尾張そして美濃を平定した信長は妹お市の方をこの地の城主浅井長政と結婚させた上で京での三好との対立、足利将軍や天皇家との駆引、東国の武田氏との対立をまとめ上げていきます。この情勢がひと段落すると姉川の戦いにて、浅井とその同盟者一ノ谷の朝倉義景をやぶり近江を平定しました。この際に浅井氏の居城小谷城は攻め落とされるのです。その後信長は東国武田氏との決戦や各地の一向一揆、西国攻めと歩みを進めて行き、琵琶湖のほとりに安土城を建設します。中国風の岐阜城とは異なり、キリスト文化までも内包した安土城。信長の世界を見る目に驚かされます。

一方、ご存知の本能寺の変で信長の亡き後に天下を制するのは備中松山城の水攻めを早々に切り上げて京に上り山崎の戦いで明智光秀をやぶった秀吉でした。清洲会議で信長の世継ぎを巡り柴田勝家と対立。織田家の血筋であるお市の方は柴田勝家と結婚しますが、長く冬を待って賤ヶ岳の戦いで柴田をやぶり、西国や小田原攻めへと駒を進めていくのです。その過程で天下人信長の権威が欲しい秀吉はお市の方と浅井長政の娘、茶々を正室に迎えます。京の聚楽亭の建設、小田原を平定し、天下をおさめた秀吉の次なる狙いは朝鮮征伐による家臣への俸禄の確保と織田家の血筋を持つ茶々との子を世継ぎにすることでした。朝鮮の役での失敗や長男秀次、利休の切腹など晩年の秀吉は「満づる月」などと揶揄されることが多いですが、その死後は茶々、淀殿と同じく近江出身の秀吉の側近石田三成と、秀吉のはじめの妻北政所と徳川家康の対立から関ヶ原の戦いがはじまるのです。石田三成という後ろ盾を失った淀殿はその子豊臣秀頼とともに大阪で一つの勢力を保持しますが、方広寺の鐘をきっかけに大坂の陣がはじまり、淀殿と秀頼は自害します。時代が目まぐるしく変わるタイミングで時代の先頭に立ってその波に翻弄された彼女。明日は地獄か。天国か。ストーリーだけでは悲劇のヒロインに見える彼女ですが、その心には小谷城からのあの美しい光景と波のたゆたう琵琶湖の風が彼女を包んでいたのではないか。私はそんな風にも思っています。

シィシイと茶々って語呂的にも湖にまつわる話的にも似てるなというオヤジギャグ的な発想ではじめたのですが、少々詰め込み過ぎてしまいました。共に悲劇的な最期を迎え、一般には民衆に人気と同時に恐れられている彼女たちですが、静かな湖を前にした彼女たちはむしろ穏やかではなかったのか。夏が終わり、過ごしやすい季節を前に、私はそんなことを思っています。